日系企業が成長に貢献
機械加工全般、 特に切削加工は、ベト ナムで最も企業数が多い製造業の分野 の一つである。 ベトナムの切削加工は CNC プログラムを活用した近代的な工作 機械で行われており、 切削加工業界は 外資系企業を多く誘致するだけでなく、 ローカル企業も数と品質の両面において 急速に成長している。
金属切削部品は多くの製品に欠かせな いものである。 ベトナムの経済成長やポ ストコロナの世界経済の回復の勢いに伴 い、切削部品の需要も高まっており、 今 後さらに拡大すると予想されている。
ジェトロ (日本貿易振興機構)が発行 した 『ベトナム優良企業 北・中部ベト ナム編 (2021年9月版)』 『ベトナム北 中部日系製造業・関連商社サプライヤー ダイレクトリー (2022年7月版)』に掲 載されたベトナム企業約40社と日系企 業約20社の情報を調べると、 ベトナム 企業と日系企業が提供している主な切削 製品は OA機器用部品、 機械部品、 金型 部品等である。 そのうち約30%のロー カル企業が切削部品を輸出しており、 主 な輸出先は日本となっている。
公開データはないが、ベトナムに進出 した切削加工企業のうち、 日系企業の割 合は他国の企業に比べはるかに多いとい う事実が分かった。 また、 日本の切削加 工企業での勤務経験や、 日本で切削加工 分野に従事した経験をもつ社長がいるベ トナム企業は数えきれない。 切削加工や 工作機械は日本が世界に誇る得意分野の 一つであり、多くのベトナム人が日本で 技術を習得しているのだ。 日本の親会社 の加工拠点としてベトナムに工場を設立 することも多い。 他の分野と同様に、日 本企業は、ベトナム企業で社長や役員な どの重要なポストに就く人材にとって技 術や規律、働き方などについて学ぶとこ ろでもある。
ローカル企業の課題
切削加工分野について、 日系企業は CNCフライスやCNC旋盤などの加工 を専門とする一方、 ベトナム企業は一般 の機械加工(棚、 ラック、 作業台、 ロー ラーコンベヤなど)、 切削加工、金型・ 治具の加工・製造、 自動旋盤、 横プレス など様々な加工からスタートし、 ある程 度成長した後に切削加工に集中するか、 切削加工を行う子会社を設立する。 その 理由は、切削加工の設備導入には多額の 資金を要し、 特に工作機械は高額なため だ。 さらに、難易度が高い部品を製造す るためには優れた設備だけでなく、 企業 が積み重ねてきた技術力や管理能力など も必要となる。そのため、 新しい工作機 械を導入するなり最初から切削加工だけ を専門とするベトナム企業は珍しい。
製品のグループによって競争圧力にも 違いが生じる。 複数の加工工程や高精密 度加工 (超精密加工) を必要とする部品 に関しては日系企業が優位に立ってお り、ある日系企業の社長は 「競争はほと んどない」 と述べた。 それに対してロー カル企業は加工精度が低いため、競争 圧力がより高くなる。 いくつかの部品を ベトナム企業に注文する日系企業もある が、CNCフライスを専門とする某社の 担当者は、「QCD の要素をバランスでき る企業を見つけるのは難しい」と述べた。 ベトナムで使用されている切削加工 設備の100% は外国製 (主に日本製) で、 中古機械の割合が高い。 ベトナムの中小 企業は、工作機械を導入する際、 ファナッ クやDMG森精機、 マザックなどの日本 ブランドの中古機械を選ぶ場合が多い。
その理由は「他国の機械に比べて、 日本 の中古機械は精密度も安定性も高く、 新 規機械より安いから」。 また北部では、 Hanoi Mechanical Company Limited (Hameco / 帯鋸切機械、 万能旋盤、 ド リルなど) と HAIPHONG Machinery Manufacturing Joint Stock Company の2社だけが簡単な工作機械を製造しており、 主にアセアン諸国や南アフリ カなどに輸出している。 加工用刃物も メーカーから輸入されており、 OSG Vietnam、 Anmi Tools などの再研磨 サービスを提供している会社もある。 次号では、 企業の運営状況と切削加工 の展望について、 日本とベトナム企業の 声をお伝えする。
発注量は急回復
今号では、ベトナムのローカルサプラ イヤーに発注経験のある切削加工分野の 日系企業の意見をご紹介する。
コロナ禍が始まった当初は、他の分野 と同様、切削加工分野も発注が急減して 苦しい状況だったが、 その後、切削加工 の発注は急速な増加傾向にある。 例え ば、 半導体製造設備や産業用プリンター に使われる各種部品、 試作品製造 、 新製 品開発向けの発注などだ。 既存顧客か らの発注に加えて、 各企業は積極的なコ ミュニケーションツールの活用や、 展示 会・ビジネスマッチングへの参加などを 通じて、新規顧客を開拓している。他方 で、顧客側も多くの国で寸断されたサプ ライヤーチェーンの回復を狙い、サプラ イヤーの選択肢を増やすべくパートナー を探している。
各社とも現在は忙しく、 受注に対応す るためにサプライヤーへ外注しなければ ならない状況だ。 ある企業は、「ローカ ル企業に外注している。日系を利用した いがどこも作業量が多く対応できない」 と答えた。
日系企業の意見
5年ほど前からベトナムの切削加工企業 が突如として増え始め、 特に10~30人 程度の小規模の企業が急増した。 その理 由は前号でも解説したとおり、 大手メー カーのサプライヤーであるFDI 企業の投 資による市場ニーズの増加と、10年以上 外資系企業に勤めて要職に就いているよ うなベトナム人人材の成長である。 ローカ ル企業の起業数の増加は、ベトナム切削 加工業界の発展の第一歩と言えるだろう。
ローカルの切削加工会社の対応能力に ついて、どの日系企業も 「協力できるよ うになるまで、極めて大変」と評してい る。以下に具体的な意見を紹介しよう。
X社 「以前は当社もベトナム企業に発 注していたが、 すべてのサプライヤー で不良が発生した。 顧客のクレームの 99% は、 当社が外注した部品に関する ものだった」
K社 「中程度の難易度、 精度の場合は、 ベトナム企業もうまくやってくれるが、 少しでも難しい要件があると 『うまくい けばできる』 になってしまい、 ほぼすべ ての納期が遅れる。 計画性に乏しいので、 正しい生産時間を算出できない。 大体の 数字を提案してから、 納期が近づくと 『機 械の生産スケジュールが未調整』 『不良が 出たのでやり直し』 などと言って納期を 遅らせることがほとんどだ。 起業したて の新しい会社は何でもやりたがるが、 い ざ受注するとやっぱりできないとなる」
これらはベトナムでサプライヤーを探 す際に日系企業の多くが懸念する点でも ある。 ある企業は率直に語ってくれた。
「私はベトナム企業が 『できます』 と答 えるとすごく怖くて、 いつも 「本当に?』 と心に疑問が浮かんでしまう。彼らが『で きる』と答えたので当社からサンプルを 送るのだが、 サンプルを見ると 『できま せん』と言って送り返してくるという ケースを何度も何度も経験してきた。お 互いにとって時間の無駄でしかない」
過去にローカル企業と取引を行った、 あるいは現在取引を行っている日系企業 は口を揃えてこのように言う。
「ベトナム企業はここ数年で急成長し ている。 一部の企業は設備や技術に投資 し、一つの加工形態に特化しているので、 同業の中でも群を抜いている。 ただ、 ベ トナム企業への発注は骨の折れる協力過 程が必要で、顧客であると同時に指導者 として、繰り返し見守り、 教えなければ ならない。 逆にサプライヤー側から見れ ば、日本の顧客との協力は要求が多くて 時間がかかると感じ、途中でやり取りを やめてしまうケースもある。 指導や加工 に多くの心血と時間を注いでも、 最後ま で残る企業は僅かだが、 私たちは彼らに 大きな敬意を払い、 長く取引を続けたい と思っている」
業界の課題と展望
現在の状況について聞くと、各日系企 業は 「会社の人材は比較的安定していて、 離職率は低い」 「競争圧力はほとんど感 じない」 と答える。 これは恐らく FDI企 業、特に日系企業はしっかりとした体制 が確立されており、収入もそれなりに良 く安定しているので、大きな事故がない 限り、 失業を心配することなく安心して 長く働けると従業員が感じているからで はないだろうか。 もちろん、 ベトナムの 一般的な人材教育の状況を鑑みると、 ど の企業も採用時に従業員の再研修を行う 必要があるが、 日系企業では体制が整っ ているので、この再研修はあまり難しく ないだろう。
日系の切削加工企業も、 通常は工数が 多くて精度の高い (1000分の1) 一つの加 工形態に特化しているため、 独自の市場 と顧客があり、 ベトナムの同業者のような 競争圧力にさらされていない。 ただし、 D 社の社長は「今はローカル企業との競争 の心配はないが、 近い将来、 彼らも成長 する。 だから当社も“進化”し続けなけ ればならない」と述べた。 また、X社から は 「他社との競争だけでなく、 自分自身を 改革しなければならない。 迅速な対応能 力の向上、作業の標準化と作業の極簡素 化を通じて、コロナ後に一変した予測の 難しいビジネス環境に対応する体制の準 備が必要」 という意見が聞かれた。
将来的な展望について、 切削加工業界 のビジネスは引き続き良好な兆しが見ら れ、そのなかでローカル企業は段階的に 成長し、 各国からの簡単な製品加工に代 わり、付加価値の高いより深い発展の方 向に進むというのが各企業の見方だ。 そ れを実現するために、 ベトナム企業は設 備やインフラのみならず、 自分たちに最 も不足し弱いとされている思考、計画策 定能力、 計画マネージメントに対する刷 新が不可欠となる。
在ベトナム日系切削加工企業リスト: Aizaki Vietnam Co., Ltd, Chuubu Kougyou Vietnam Co., Ltd, Endo Vietnam Co., Ltd, EXT Engineer Vietnam Co., Ltd, Kiwa Industry Co., Ltd, MTS Vietnam Co, Ltd, Megugawa Seiko Vietnam Co., Ltd, v.v.
(ソース: 株式会社 NC ネットワークベトナム Nguyen Thu Phuong,CNCTech)